« 中野振一郎チェンバロ演奏会 | トップページ | 漱石「それから」-4(最終回) »

2015年9月13日 (日)

漱石「それから」-3

2 激流
「それから」は第14章から豹変し、それまで積み上げて来た代助像をかなぐり捨てるようにして、その対極へ一気に行ってしまう。

三千代を自宅へ呼び、「僕の存在には貴方が必要だ。何うしても必要だ。」と告白する。
ここでは、代助の意識で幸福(ブリス)と苦痛が表裏一体となっていること、三千代への恋を貫徹することの光と影を漱石は立体的に描いている。

ここは漱石作品のみならず、過去の読書において一番強烈な印象を受けた箇所である。

二人の愛を象徴するものとして百合が印象的に用いられている。
時系列的には、二人が知り合った頃、代助が三千代の家へ持って行ったのを発端として、三千代が代助を訪問する際に持参、かつて代助がした仕草を真似て代助からたしなめられるところ、そして三千代へ告白する場面でも代助は室内に百合をあしらっている。

もう一つ印象的なのは三千代の銀杏返し。
東京へ来たての頃、その髪型をしたことがあって、代助を初めて訪れた際に、この髪型をしていた。

いずれのエピソードも、三千代の代助への思いは明白である。

三千代は代助から呼び付けられた時は、予感はあったろうが、告白を受け、「余んまりだわ」「残酷だわ」と涙をこぼす。
そして平岡への背信となる事に対し、決然と「覚悟を決めましょう」と神経の太い処を見せるが、代助は逆に水を被った様に女々しく身震いする。

代助は平岡を自宅へ呼び、三千代との事を告白する。
平岡は代助との絶交を宣言し、三千代の急病を伝え、それが回復するまでは会う事も引き渡す事も中断する旨を表明する。

代助は自制心を失い、朝、昼、夜と平岡宅周辺へ足を運ぶが、三千代との連絡はつかず、困憊している処へ父からの勘当の知らせを兄誠吾から受ける。
平岡は代助の父へ三千代と代助とのいきさつを長文の手紙で暴露したのだ。

そしてエピローグ。
「門野さん。僕は一寸職業を探して来る」と身を焦がすような炎天下へ出て行き、電車の中で「ああ動く。世の中が動く」と口走る。
代助の目に次々と赤い色が飛び込んで来て、最後は真っ赤になって頭の中で回転を始めるところで「それから」は完結している。

1img_5003

「それから」連載最終回(第17章の三(第110回)朝日新聞'15.9.7(Mon.))

« 中野振一郎チェンバロ演奏会 | トップページ | 漱石「それから」-4(最終回) »

読書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 漱石「それから」-3:

« 中野振一郎チェンバロ演奏会 | トップページ | 漱石「それから」-4(最終回) »