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2015年11月20日 (金)

第67回正倉院展-京都、奈良行(4)

奈良国立博物館の正倉院展は通常の展覧会と異なり、格別なものがある。
それは正倉院という校倉造の建物の中に1,300年もの間保存されて来た奈良時代の宝物が、毎年秋に曝涼のため開封されるのに合わせ、60数点が一般公開されるという特別な展覧会だからだろう。
9,000点に及ぶ宝物の中からの60点余りだからごくごく一部ということで、同じ宝物が次に公開されるのは少なくとも10数年後となれば、彗星とか皆既日食のような天体現象ほどでないにしても、老い先短い人生からすれば一期一会のようなもので、理想を言えば毎年見逃せない事になる。

毎回最も人だかりがある東新館2階中央の展示スペースの聖武天皇遺愛品の楽器、碁盤等の見事な装飾が施された珠玉の品が楽しみで、今回そこに展示されたのは紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ)。
楽器側面と背面には木画という装飾が施され、3種類の花文を規則正しく配列している。
また捍撥(かんばち)と云って撥の当たる部分に施されたのは山水画だそうで、絵具が剥離して目を凝らしてもそれと認識するのが難しかったが、図録の描き起こしを見ると、実に高雅細密なものであることがわかる。

弦は4本張られていてペルシャ起源の由。
5弦の琵琶もあり、それはインド起源なのだそうだ。
今回の展示では弦が張られていたと思うが、どのようなものが材料なのか興味があるところだ。
ヨーロッパの古楽器であるリュートやビウェラは精々4~500年昔のものだから、正倉院の琵琶はケタが違う。

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上は今回の正倉院展の図録。紫檀木画槽琵琶背面の装飾が表紙に採用されている。

今回唸らされたのはNO27七条褐色紬袈裟(しちじょうかっしょくのつむぎのけさ)。
聖武天皇遺愛品で、南インド出身で唐代に洛陽と長安で活躍した金剛智三蔵の袈裟という由緒があるそうだ。
羅という絹織物で、NHKの日曜美術館でも紹介していたが、昭和初年、約20年をかけて京都西陣の研究会がやっと解明した複雑な織り方で、単眼鏡で見ると菱形の中に更に小さな菱形が入っているのがわかった。
図録で全体写真を見ただけだと何の変哲もない織物という印象以上のものでしかないのだが。

興味深かったのは、乞巧奠(きっこうでん)という七夕行事で使用された針(というより棒状のもの)、縷(る)という糸玉。
これも日曜美術館では乞巧奠が京都冷泉家で現在まで継承されて来ている事を紹介していた。
それと春分の行事に用いられたという紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)(染め象牙の物差し)。

毎回期待しているのは聖語蔵(しょうごぞう)の経巻である。
展示されるのは3~4巻程度で使用している紙は装飾性はないが、それが墨書の格調を逆に高めているように思う。
特に「唐経」と称される唐代の写経が毎回1巻展示されるが、別格の感がある。

それと当時の古文書も楽しみの一つだ。
これに関して今回の妻のエピソードを記したい。

新館エントランスロビーのカウンターで質問受付していて、妻がかねての疑問を質問用紙へ記入し、提出した。
追って電話で自宅の方へ回答するようになっていて、後日博物館から妻の元へ電話があった。

妻の出身高校の校歌(*1)に「望陀(*2)の「さよみ」織りし子の・・・」という下りがあって、平成23年3月に発行された創立百周年記念誌に「望陀の「さよみ」」探求の報告文が載っており、それは古代布で律令制下の「租庸調」の調として納められていた、とある。
*1:新制木更津東高等学校校歌。作詞は当時の校長だった隆高鑑。この人は後に狸囃子の唱歌で有名な證誠寺の住職を務めている。
*2:望陀(もうだ)は廃藩置県までの千葉県木更津、袖ケ浦地方の地名

妻の質問は、正倉院宝物に望陀布があるか否かであったが、学芸員の先生からは望陀布そのものは宝物の中にはないとのことで、平成22年の第62回正倉院展で望陀の近隣の上総の国市原の調布の展示がされたとの情報提供があった。

第62回は観ており、図録が手元にあるので早速見てみると、NO43紅赤布(べにあかのぬの)として出ている。
解説には「続日本紀」に「上総望陀細貲」(かずさのまくだのさよみ)とあり、紅赤布と同等と考えられると結論している。
紅赤布は分析により麻であることがわかっており、したがって望陀布は麻ということになるわけで、これは百年史に書かれている材料とは異なっている。
望陀布そのものが現存していない以上、文献、伝承等を頼りに推測するしかないわけで、記念誌で報告文を担当されたOGの方々の真摯な探究心は尊敬に値するし、図録の解説文も、細部に至るまで裏付けが徹底されていることが図らずも今回認識でき、改めて畏敬の念を覚えた事を記したい。

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右がNO43紅赤布のページ

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第62回正倉院展の図録。螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)が表紙を飾っている。

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