« 静嘉堂文庫美術館「金銀の系譜」-2 | トップページ | 望陀布について »

2015年12月26日 (土)

静嘉堂文庫美術館「金銀の系譜」-3(最終回)

また谷崎「蓼喰う虫」について。
淡路浄瑠璃行の9~11章に続き、12章は神戸山手Mrsブレントの家の馴染の娼婦ルイズとの関係が描かれるが、ここも唐突な感が否めず、前後の脈絡が希薄だ。
そして最後の13,14章は離婚話で京都の義父宅を夫婦で訪問する顛末だが、義父は娘の美佐子を料亭に連れ出し娘夫婦の撚りを戻そうと尽力する一方で、夫の要は義父宅に残り、入浴、食事、蚊帳の中での小憩と、淡々とお久の給仕を受けるという、小説から離れて改めて見てみると、やや尋常でない感のある展開が続くところで、すべて未解決のまま小説は幕を閉じる。

唐突な終わり方で、それは読者の自由な想像力に委ねる事ともなるので奥深い感じもあるが、読み終えて全編を振り返ってみると全体の構成に難があるようだ。
要夫婦の帰着する先が明示されていないが、多分老人の努力は実を結ばないこととなるのだろう。
ただ、その先要はどこに行くのかが漠然としている。これも多分お久への思いが募って行く事が絡んで来るのではないだろうか。
そして重要なモチーフである人形浄瑠璃は要にどう作用して行くのか。

すべて材料が並べられたところで中途半端に終わってしまった感があり、読者として大変な欲求不満状態へ追いやられてしまった。そもそも「蓼喰う虫」の「蓼」は誰で、「虫」は誰なのか?読み終えてもストレートには判然としない。

水村美苗は「続明暗」を書いたが、出来得れば「続蓼喰う虫」を書く人を待望したい。

閑話休題。

展示場を出てエントランス・ホールにある売店へ。
図録はないようだ。その代わりと言っては何だが、受付で貰ったパンフレットが置いてある。
絵葉書と一番奥にあった「東京人」」12月号の静嘉堂特集号を買った。

静嘉堂の命名の由来や、前、新静嘉堂文庫館長の中根千枝、河野元昭他の鼎談で沿革、コレクション紹介、オーナーの岩崎彌之助、小彌太親子のエピソードの披露、主要収蔵品のグラビア等々、ちょっとした静嘉堂ハンドブックだ。

鼎談で中根が小彌太の時代の文庫長の諸橋轍次について述べている。
この人は箱根の小彌太の別荘「見南山荘」の命名者だ。
現在山のホテルとなり、小彌太が造園したつつじ園、石楠花園は今やホテルの代名詞となっているが、つつじ園の中に「見南山荘記」という石碑がある。

1img_3676
末尾に「昭和巳卯春日 文學博士諸橋轍次撰書」とあり、巳卯すなわち昭和14年(1,939)に書かれたものと分かる。

当時のつつじ園の様子はホテルのロビーに掲示されている川瀬巴水の版画で偲ぶ事が出来る。

1img_3783
ロビーでは4作品を見ることが出来るが、これはその中の1点「ベランダより見るつつじ庭」。
着物姿の女性が画面左中央に見える芦ノ湖の方を向いている。

巴水は小彌太の委嘱により、昭和10年(1,935)6月に見南山荘を訪れ、夏には全6点が完成したようだ。
千葉市美術館の「巴水展」('13~'14)で全点展示された。

昭和10年の谷崎潤一郎は、2番目の夫人丁未子と1月に離婚、4月に根津松子と挙式している。また、9月に「源氏物語」の現代語訳を開始、昭和14年に中央公論社から刊行が始まっている。
この時の校閲者が山田孝雄(やまだよしお)で、諸橋轍次といい、碩学はいるものだと感じ入った次第。

時代はすでに満州事変が起き、日本は国際連盟を脱退していて、翌昭和11年には2.26事件、そして昭和14年には英仏がドイツへ宣戦布告している(第2次世界大戦)。
また地元の市民文化ホールにあった音楽情報誌「ぶらあぼ」2,016年1月号に小澤征爾のインタビューが載っていて、プロフィールを見ると小澤は昭和10年に生れている。
すでに80年の時間が経過したわけだ。

静嘉堂文庫の設立は明治25年(1,892)蔵書数和漢古典籍20万冊、美術館は平成4年(1,992)開館、3年前に20年目を迎え、収蔵庫のリニューアルに着手したとのこと。
美術品6,500件(内国宝7、重要文化財83、重要美術品79)。

これまでに訪れた事のあるところと比較してみると、
藤田美術館(大阪)は昭和29年(1,954)開館、美術品2,111件(内国宝9、重要文化財52)。
大倉集古館(東京)は大正6年(1,917)開館で私設としては日本最古、美術品2,500件(内国宝3、重要文化財13、重要美術品44)、蔵書数3万5千冊。
ということになる。
共通点は、コレクションが東洋古美術であること。ただし大倉集古館は明治期以降の大観、玉堂、春草等の日本画のコレクションを有している。

静嘉堂文庫の規模が圧倒的であることがわかるが、その割に他の2館に比して展示スペースは狭小である。

(おわり)

« 静嘉堂文庫美術館「金銀の系譜」-2 | トップページ | 望陀布について »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 静嘉堂文庫美術館「金銀の系譜」-3(最終回):

« 静嘉堂文庫美術館「金銀の系譜」-2 | トップページ | 望陀布について »