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2017年4月30日 (日)

夏目漱石「吾輩は猫である」-6(最終回)

漱石「吾輩は猫である」もようやく最終回へこぎ付く事が出来た。
既に書いた事だが単なる滑稽小説にとどまらぬ広がりと深さを持ち、以後の漱石を予感させるすべてがここに内包されていると言ったら言い過ぎだろうか?

とまれ、人生の折々に作品へ親しみ、その都度新鮮な感興を受けて来た漱石であるが、残された時間はあとどの位なのかわからないが、今後も漱石は読んで行きたいと思っている。

今回は、寒月のモデルである寺田寅彦関連で「猫」を契機に派生した事を綴り、また末尾へ本ブログ「猫」シリーズにあたっての参考書目を記して終わりたい。

森まゆみ「千駄木の漱石」の「寺田寅彦の原町、曙町」冒頭に、
「友だちが「僕にとって最初の、一番性的興奮を感じた文学作品は寺田寅彦の「団栗」だ」と言うのを聞いて驚いた。今読み返してみると彼の言った意味がよくわかる。」
とあり、書き出しが刺激的なので手元の「寺田寅彦全集」第1巻をあたってみると「どんぐり」があった。読んでみたが、森が書いているような意味合いは私には理解できなかった。

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上は岩波版寺田寅彦全集第1巻。

が、この章は寺田のプロフィールを漱石との交友も絡め、簡潔に紹介していて大変参考になった。

寺田の文章は淡々として無駄がなく、そして格調が高い。底には科学者らしい冷静さも備わっている。
漱石の文章から移ると、ほっとするような感じも受ける。
ちなみに「どんぐり」は明治38年4月の「ホトトギス」へ掲載された。漱石の「猫」第三、「幻影の盾」と同じ号だ。寅彦27才。その5年前にして既にかくも厳しい悲哀を経験しているとは!

また旧版全集(昭和49年版)附録として入手した昭和10年版全集月報の中谷宇吉郎の文章も併せ読んだ。中谷が月報へ寄せた3編の文章は、漱石と寺田の交友、漱石作品への寺田の関わりについて寺田寅彦から直接耳にしたエピソードを、師である寺田への追懐の念を込めて記された今となっては大変貴重で、興味深い内容である。

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上は中谷宇吉郎「科学の方法」(岩波新書)昭和33年第1刷。私のは昭和46(1,971)年の第16刷。10年余でのこの増刷で、当時はよく読まれていた事がわかる。

中谷の3編中の昭和12(1,937)年の月報第17号の「冬彦夜話」に、寅彦の述懐で上の「猫」第三に出て来る金田家の令嬢とのエピソードが、最初の妻を亡くし意気消沈していた寅彦を慰める意味合いも込めて漱石によって書かれたという話が出て来る。「ホトトギス」の同じ号に載った「どんぐり」が亡き妻の追憶の文章である事を思うと、複雑な思いがあるが・・・。

また昭和11(1,936)年の月報第9号の「「光線の圧力」の話」では、「三四郎」についての話だ。
大学の地下の実験室に籠もって研究に余念がない野々宮さんが描かれるが、これも寺田がモデルとなっている。その物理の知見に関する記述は、漱石が寺田の助言により「三四郎」へ反映させており、連載時の初出と単行本初版とで訂正、削除があってテキストが異なっている由。
その異同は小宮豊隆の教示のようだが、中谷の目で見ても訂正後の記述が妥当である由。当時の全集は「勿論単行本の際に訂正されたもの」を採用していると中谷は強調している。
「その4」で触れた本文テキストに関する話になる訳だが、これを記している時点で、私は自分の目で定本版と旧版のテキストを比較確認していない(定本版は現在刊行中で、「三四郎」の巻は多分発売済みだと思う)。
この「三四郎」のケースでは、自筆原稿優先という原則は適当でない事になる。
(終わり)

参考書目
1. 「吾輩は猫である」全224回 平成28年4月1日~平成29年3月28日 朝日新聞 
2. 定本漱石全集第1巻(吾輩は猫である) 2,016年12月9日 岩波書店
3. 漱石全集第1巻(吾輩は猫である) 昭和49年12月9日第2刷 岩波書店
4. 漱石全集第2巻(短篇小説集) 昭和50年1月9日第2刷 岩波書店
5. 漱石全集第8巻(小品集) 昭和50年7月9日第2刷 岩波書店
6. 漱石全集第13巻(日記及断片) 昭和50年12月9日第2刷 岩波書店
7. 漱石全集第27巻(年譜他) 1,997年12月19日 岩波書店
8. 漱石全集第35巻(補遺 漱石作品発表月次表他) 1,980年5月6日 岩波書店
9. 漱石全集第1巻月報1 平成5(1,993)年12月9日 岩波書店
10. 漱石全集月報(昭和3年版、昭和10年版) 漱石全集(昭和49年版)附録 昭和50年12月9日岩波書店
11. 「寺田寅彦全集」第1巻 1,977年7月12日第9刷 岩波書店
12. 荒正人著、小田切秀雄監修「増補改訂 漱石研究年表」 昭和59年6月20日第1刷 集英社
13. 大岡昇平「小説家夏目漱石」 1,988年8月25日初版第6刷 筑摩書房
14. 小宮豊隆「夏目漱石二」 昭和49年4月30日第15刷 岩波書店
15. 森まゆみ「千駄木の漱石」ちくま文庫 2,016年6月10日第1刷 筑摩書房
16. 富士川英郎「読書清遊」講談社文芸文庫 2,011年6月10日第1刷 講談社
17. 北野豊「漱石と歩く東京」 2,016年4月10日第4刷 雪嶺文学会
18. 「100年目に出会う 夏目漱石」展図録 2,016年3月26日 神奈川近代文学館

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